運送契約の書面交付義務とは?記載6項目と交付方法をわかりやすく解説
「これまで電話やFAXで受けていた運送依頼を、書面にしなければならなくなったと聞いた」「メールでのやり取りでも書面交付になるのか」「委託先に渡す書面には、いったい何を書けばいいのか」——2025年4月の改正貨物自動車運送事業法の施行以降、荷主との取引でも、下請への発注でも、こうした戸惑いの声が増えています。
結論から言うと、2025年4月1日から、運送契約を締結するときは、運送の内容や運賃・料金などを記載した書面を交付することが義務づけられました1。しかも書面を渡す場面は「荷主と自社の間」だけではありません。自社が下請へ運送を委託する(利用運送を行う)ときにも、委託先への書面交付が必要です。
まず全体像を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| いつから | 2025年4月1日(トラック事業者)。貨物利用運送事業者への準用は2026年4月1日 |
| 2種類の書面交付 | (a) 真荷主とトラック事業者の相互交付=法第12条 / (b) 利用運送を行うときの委託先への交付=法第24条 |
| 何を書くか | 運送役務の内容・対価、附帯業務、特別費用、当事者の氏名住所、支払方法、交付年月日の6項目 |
| 方法 | 書面(紙)のほか、相手方の承諾があればメール等の電磁的方法でも可。電話連絡のみは不可 |
| 保存 | 交付した書面の写しを1年間保存(中小受託取引適正化法も適用される取引は2年間) |
| 違反したら | 罰則はないが、行政処分・是正指導の対象となる可能性 |
以下、誰と誰の間で、何を、どう交付すればよいのかを順に解説します。
なぜ義務化されたのか——「口頭の運送依頼」という長年の課題
改正の背景から押さえておきます。国土交通省のQ&Aは、この改正の狙いを、貨物自動車運送業における「多重取引構造や口頭による運送契約の締結等が適正な運賃・料金の収受に当たっての大きな課題となっていた」ことへの対応だと説明しています1。
電話一本で「明日この荷物をお願い」と受け、運賃も附帯業務の範囲もあいまいなまま運び始める——この慣行が、契約にない荷役をさせられたり、待機時間が料金に反映されなかったりする温床になっていました。そこで、運送契約を結ぶ時点で、運送サービス(附帯業務等を含む)の内容とその対価を書面で明確にすることが義務づけられました2。
この書面交付義務は、2024年5月に公布された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(いわゆる改正物流法)によって貨物自動車運送事業法に加えられたもので、実運送体制管理簿の作成・保存義務などと同じく2025年4月1日から施行されています13。「実運送体制管理簿とは?作成義務・記載事項・保存期間」で解説した管理簿と、いわば同じ改正の一環です。
2種類の書面交付——第12条(相互交付)と第24条(委託先への交付)
最初につまずきやすいのが、「誰が誰に書面を渡すのか」です。国土交通省のリーフレットは、書面交付には根拠条文の違う2種類があると整理しています2。
(a) 真荷主とトラック事業者の相互交付(法第12条)
真荷主とトラック事業者が運送契約を締結するときは、双方が互いに書面を交付します。片方が渡せば足りるのではなく、荷主・トラック事業者の双方に義務がかかる「相互交付」である点が特徴です2。
ここでいう「真荷主」とは、Q&Aの定義では、①自らの事業に関して、②貨物自動車運送事業者または貨物利用運送事業者との間で運送契約を締結して貨物の運送を委託する者であって、③これらの事業者以外のもの、を指します1。「自らの事業に関して」とあるとおり、一般消費者は真荷主に含まれません(個人の引越や宅配は対象外)。一方、事業として運送を委託するのであれば、個人事業主も真荷主に該当します1。
(b) 利用運送を行うときの委託先への交付(法第24条)
トラック事業者等が、自ら引き受けた貨物の運送について他の事業者の運送を利用する(=下請に出す)ときは、委託元から委託先に対して書面を交付します2。こちらは相互交付ではなく、委託する側から委託される側への一方向の交付です。
多重下請けの構造では、この第24条の交付が各段で必要になります。元請から1次請けへ、1次請けから2次請けへと委託が続けば、そのつど委託元が委託先へ書面を交付します。委託階層そのものについては「多重下請けは何次まで?委託階層の実態と規制の現在地」で整理していますが、書面交付はその一段ごとに発生すると考えると分かりやすいはずです。
なお、貨物利用運送事業者(いわゆる水屋を含む)が自ら義務主体となる場面は、2026年4月1日からです。改正物流法とは別の「トラック適正化二法」(2025年6月11日公布)により、貨物利用運送事業者にも真荷主との相互書面交付や委託先への書面交付などが準用されることになり、その一部が2026年4月1日に施行されました1。本記事の公開時点(2026年7月)では、トラック事業者も貨物利用運送事業者も、それぞれの立場で書面交付義務の対象になり得ます。
書面に書くべき6つの法定事項
では、書面には何を書けばよいのか。国土交通省は、交付書面に記載すべき事項(法定事項)を次の6つとしています12。
- 運送の役務の内容及び対価
- 運送契約に運送の役務以外の役務(荷役作業、附帯業務等)が含まれる場合には、その内容及び対価
- その他特別に生じる費用に係る料金(例:有料道路利用料、燃料サーチャージなど)
- 運送契約の当事者の氏名又は名称及び住所
- 運賃・料金の支払方法
- 書面の交付年月日
ここで実務上のポイントが2つあります。
ひとつは、②の「運送の役務以外の役務」を運賃と分けて(別建てして)書くという点です。Q&Aは、積込みや取卸しといった荷役作業・附帯業務は原則として「運送の役務以外の役務」に当たり、これらに係る料金は原則として運賃とは別建てで対価を設定する必要がある、としています1。「運賃込み」で曖昧にせず、附帯業務は附帯業務として値づけする、という考え方です。ただし、時間制運賃の場合は、その時間内に行われる積込み・取卸しの対価を運賃に含めても差し支えないとされており、その場合でも積込み・取卸しが発生する旨は書面に明記する必要があります1。
もうひとつは、契約締結の時点で未定の事項があってもよいという点です。Q&Aは、締結時に未定の事項(例えば附帯業務の有無など)がある場合、その事項以外について先に書面を交付し、内容が決まった時点で別途書面を交付する対応も認めています。ただし、後から交付する書面は、遅くとも運送が行われる前に交付しなければなりません1。
「メールでも可」——電磁的方法と、電話だけはNGという線
「うちは紙の契約書なんて交わしていない。メールやFAXで足りるのか」という疑問は多いはずです。
結論として、相手方の承諾があれば、書面(紙)に代えてメール等の電磁的方法で法定事項を提供できます12。Q&Aが挙げる方法には、電子メールやFAXでの送受信、ウェブサイト上の記載事項を相手方がダウンロードする方法などがあり、メール本文に法定事項を直接記載して送る形でも構わないとされています1。PDFを添付する必要すらありません。
ただし、これには「相手方が電磁的方法によることを承諾している場合に限る」という条件が付きます2。勝手にメールだけで済ませてよいわけではなく、相手の承諾が前提です。
一方で、越えてはいけない一線があります。電話連絡だけで済ませることは認められません。Q&Aは、「電話で運送依頼を行う場合であっても、電話連絡後直ちに書面を交付しなければならない」「電話連絡のみによる運送依頼は、書面交付義務違反となる」と明記しています1。長年の「電話一本の運送依頼」は、電話の後に書面(メールを含む)を直ちに交付して初めて要件を満たす、ということです。
どこまで書けば足りるか——基本契約・送り状・保存・例外
日々の運送のたびに、毎回すべてを書き起こすのは現実的ではありません。Q&Aは、実務の負担を踏まえたいくつかの取扱いを示しています1。
- 契約書である必要はない:必要な事項が記載された書面であれば形態・様式は問わず、送り状などを交付書面として活用することも可能です。
- 1つの文書にまとめなくてよい:基本契約書・覚書・運送依頼書・送り状・単価表など、複数の書面で法定事項を網羅し、相互に関連付けて明確になっていれば問題ありません。
- 基本契約書でカバーできる場合:法定事項が基本契約書にすべて記載され、かつ「運送の役務」と「運送の役務以外の役務」の内容が日々変動しない場合(配送計画が一定期間ごとに事前に決まる等)は、運送依頼ごとの書面交付は不要です。ただし、附帯業務の有無が運送ごとに変わるような場合は、その運送依頼ごとに書面が必要になります。
保存についても定めがあります。交付した書面は、その写しを1年間保存しなければなりません2。紙で交付した書面をPDFに変換して保存した場合、元の紙は保存しなくて差し支えないとされています1。なお、下請法にあたる「中小受託取引適正化法」も同時に適用される取引では、同法に基づき2年間の保存義務がかかるため、両法が重なる取引では2年間保存しておけば足ります1。帳票ごとの保存期間は「運送業の帳票保存期間」ともあわせて確認しておくと、社内ルールを一本化しやすくなります。
例外もあります。「災害その他緊急やむを得ない場合」、および「真荷主が郵便物・信書便物の運送を委託する場合(法第12条第1項に基づく交付に限る)」は、書面交付義務の対象外とされています1。ただし、いわゆるスポット輸送は、この例外には該当しません。Q&Aは、スポット輸送についても災害時等を除き基本的に書面を交付する必要がある、と明言しています1。「スポットだから口頭でよい」という理解は誤りなので注意が必要です。
違反するとどうなるか——罰則はないが、行政処分・是正指導の対象に
最後に、守らなかった場合の扱いを、事実として正確に押さえておきます。
Q&Aによれば、書面交付義務違反に対する罰則(刑事罰)はありません。ただし、貨物自動車運送事業者については、貨物自動車運送事業法第33条に基づく行政処分の対象となる可能性があります1。
さらに、委託先の運送事業者の法令違反の原因となり得る行為が確認された場合には、荷主や貨物利用運送事業者についても、トラック・物流Gメンによる是正指導の対象となる可能性があるとされています1。書面交付は、単なる社内事務ではなく、取引の適正化を確認するための入口として位置づけられている、ということです。
罰則がないからと後回しにするのではなく、運賃・料金を明確にして自社の収受を守るための仕組みとして捉えるのが、この制度の本来の使い方です。適正な運賃の議論は「「適正原価」とは?トラック適正化二法で標準的な運賃はどうなるのか」とも地続きです。
実務チェックリスト
自社の立場ごとに、書面交付義務への対応状況を確認するためのチェックリストです。
荷主から運送を受ける(荷主と契約する)立場で
- 真荷主との契約時に、双方向の書面交付(相互交付)ができているか
- 書面に6つの法定事項(役務内容・対価/附帯業務/特別費用/当事者の氏名住所/支払方法/交付年月日)を記載しているか
- 積込み・取卸しなどの附帯業務の対価を、運賃と別建てで明示しているか(時間制運賃の場合は発生する旨を明記)
- メール等で交付する場合、相手方の承諾を得ているか
- 電話で依頼を受けたとき、**その後直ちに書面(メール可)**を交付しているか
下請へ運送を委託する(利用運送を行う)立場で
- 委託先へ、一段ごとに書面を交付(第24条)しているか
- 委託先へ渡す書面にも、6つの法定事項が網羅されているか
- 貨物利用運送事業者として、2026年4月1日以降の準用対象になっていないか確認したか
共通(記録・保存)
- 交付した書面の写しを1年間(下請法も適用される取引は2年間)保存できる状態か
- 基本契約書・送り状・単価表などで法定事項を網羅する場合、相互の関連付けが明確になっているか
まとめ
書面交付義務は、「面倒な書類が増えた」という話ではありません。運賃や附帯業務の対価を、運送のたびに当事者どうしで明確にしておく——それは、契約にない荷役や、料金に反映されない待機を防ぎ、自社が受け取るべき対価を自社で守るための仕組みです。荷主とは相互に、下請へは委託の一段ごとに。書面を交わす場面は、委託構造が深くなるほど増えていきます。
裏を返せば、これを運送のたびに手作業で回すのは、案件が会社をまたぐ現場ほど負担が大きくなります。誰と誰の契約で、何をいくらで、附帯業務はどこまで含むのか——書面に落とすべき事実は、そのつど新たに作るものではなく、日々の受注・委託・運行の記録そのものの中にあります。
運送番頭は、この委託の連鎖——誰から預かり、誰に任せたか——を、運賃や附帯業務の対価とあわせて、日々の配車業務の中で記録します。書面交付そのものを自動で完結させる仕組みではありませんが、書面に必要な事実(契約の当事者、運賃・料金、附帯業務の内容)を業務のなかで記録として持っておければ、制度対応のたびに情報を集め直す手間は小さくできます。委託構造が動いても「誰が誰に何を委託したか」が記録として残っていること。それが、書面交付が一段ごとに求められる時代に、責任の連鎖を途切れさせないための現実的な備えになります。
脚注
-
国土交通省「改正貨物自動車運送事業法Q&A(令和8年3月31日時点)」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001993962.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20
-
国土交通省「運送契約締結時の書面交付義務化(リーフレット)」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001865379.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
-
国土交通省「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html ↩
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