多重下請けは何次まで? 委託階層の実態と規制の現在地

繁忙期に協力会社へ出した仕事が、その先でさらに再委託されていた。あるいは、自社がいま走らせているこの仕事は、そもそも何次請けなのか分からない——。元請としても下請としても仕事をする運送会社の経営者・管理者の方から、「下請けは法律上、何次まで許されるのか」というご質問をいただくことが増えました。

先に、2026年7月時点の答えをまとめます。

問い答え(2026年7月時点)
下請け次数に罰則付きの上限規制はあるかない。ただし2026年4月から「委託段階を2次までに制限する」努力義務が施行
すでに義務化されているものは実運送体制管理簿(2025年4月〜)、運送契約の書面交付など、階層を記録して見えるようにする義務
これから来るものは許可の5年更新制、「適正原価」を継続して下回る運賃の制限(公布から3年以内に施行予定)

以下、法律の現在地・実態調査の数字・実務対応の順に解説します。

「何次まで」への法律の答え——上限規制はない。ただし基準線は引かれた

まず前提として、日本の現行法には「下請けは◯次まで」という罰則付きの上限規制はありません。3次請け・4次請けが発生しても、そのこと自体が直ちに違法になるわけではありません。

ただし、2025年6月に成立・公布された「トラック適正化二法」(貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律〔令和7年法律第60号〕および貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律〔令和7年法律第61号〕)により、状況は変わりました。2026年4月1日から、トラック運送事業者・貨物利用運送事業者は、荷主から引き受けた貨物の運送について、委託段階を2次までに制限するよう措置を講ずる努力義務を負っています1

「努力義務だから関係ない」と読むのは早計です。理由は3つあります。

  1. 行政指導の枠組みに乗る。 委託の適正化に関する規制への違反が認められる場合、トラック・物流Gメンによる是正指導の対象になり得る体制がすでに整っています2
  2. 業界標準がその方向に動いている。 全日本トラック協会は令和6年3月の提言で「トラック運送業界全体として2次下請までに制限すべき」と明言しており2、国土交通省の検討会でも、大手元請が協力会社に対して「原則2次請けまで」の制限を要請している例が実態として報告されています2
  3. 段階的に強化される設計になっている。 国土交通省は、まず本法律に即した対応を進めた上で、施行後の改善状況を注視し、必要に応じて更なる措置の導入を検討すべきとしています2。努力義務は「終点」ではなく「起点」です。

つまり「何次まで?」への実務的な答えは、こうなります。上限規制はないが、国の基準線は「2次まで」に引かれた。そして規制は、まず「何次なのかを数えられること」を求めてきている——これが現在地です。

実態はどうなっているか——国交省調査の数字

規制の方向を理解するには、前提となっている実態を見るのが早道です。国土交通省の「トラック運送業における多重下請構造検討会」が2025年6月に公表したとりまとめ2から、実務者として押さえておきたい数字を挙げます。

  • 約7割(74%) の事業者が、他のトラック運送事業者を利用して運送することがある(全日本トラック協会会員51,657者を対象としたアンケート、回答4,401者)
  • 委託に出す際、約3割が請負金額の90%未満で委託している
  • 委託する理由の上位は「自社のトラック(ドライバー)の不足」(59.8%)と「荷主からの突発的な運送依頼」(58.3%)
  • 利用運送事業者への調査では、手数料を運賃の5〜10%程度とする事業者が約6割。一方で、手数料を依頼先に明示していない事業者が6割を超える
  • ヒアリングでは「依頼先は元値を知らないので、引き受けた運賃の5〜6割で再委託を行う」という例も報告されている

そして、実務目線で最も重要なのは次の指摘です。ヒアリングでは「実運送事業者は把握しているが、当該事業者と自社の間に何社が介在しているか(請負次数)は把握していない」という回答が多数を占め、「請負次数をはじめ多重取引構造の全体像を誰も把握できていない」状況が確認されています2

多重下請けの問題は、誰かが悪意で隠しているというより、そもそも数えられる仕組みがないことにあります。電話とFAXで仕事が流れていく商流では、2次から先は元請からも荷主からも見えません。規制が「上限」より先に「記録」から始まったのは、この構造を踏まえたものです。

規制は3つの層で進んでいる

「何次まで」という一点だけを見ていると全体を見誤ります。多重下請けをめぐる規制は、次の3層で段階的に進んでいます。

第1層: 記録して見えるようにする(施行済み)。 2024年公布の改正物流法により、元請事業者には2025年4月から、実際に誰が運んだかを請負階層まで記録する実運送体制管理簿の作成義務と、運送契約締結時の書面交付義務が課されています。2026年4月からは、これらの義務が貨物利用運送事業者にも拡大されました3

第2層: 委託行為そのものを規律する(2026年4月〜)。 前述の「委託段階を2次まで」の努力義務に加え、トラック適正化二法では、許可を持たずに有償運送を行ういわゆる違法白トラックの利用が明示的に禁止され、利用した荷主等も処罰の対象になりました1。また、令和7年には下請法の改正(中小受託取引適正化法)により、荷主とトラック運送事業者間の契約も同法の対象に加えられています2

第3層: 運賃の経済面から締める(これから)。 トラック適正化二法は、一般貨物自動車運送事業の許可に5年ごとの更新制を導入し、更新にあたっては、収受した運賃・料金が国の定める「適正原価」を継続して下回っていないかを確認する仕組みを定めました。下回っている場合は許可の更新ができません。この部分は公布から3年以内に施行される予定です1

順番に意味があります。まず数えられるようにし(管理簿)、次に委託の次数と行為を絞り(2次まで・白トラック禁止)、最後に運賃水準で市場から締める(適正原価・更新制)。多重下請け対策は一発の禁止規定ではなく、外堀から埋めていく設計です。

海外は「何次まで」をどうしているか

検討会のとりまとめは、諸外国の規制も参考として整理しています2

  • アメリカは2012年の法制定で、貨物の運送業務と仲介(ブローカー)業務を切り分けました。ブローカーライセンスを取得せずに荷物の仲介を行うことは禁止され、運送事業者として受注した場合には、ブローカーとして他者へ再委託することはできません。
  • 韓国では、委託できる段階が日本でいう1次下請までに制限されており(1次下請からの再委託は原則禁止)、加えて、荷主と契約した貨物の一定割合(年間契約貨物の50%以上)を自ら運送する義務や、運送・斡旋実績を国に申告する制度があります。

「委託の連鎖に構造的な歯止めをかける」という方向は、国際的にも珍しいものではありません。日本の「2次まで」の努力義務は、この相場観に沿った第一歩と位置づけられます。

実務で何を準備するか

元請として委託する側と、下請として受ける側に分けて整理します。

委託する側(元請・利用運送)

  • 自社案件の委託階層を「その場で」答えられる状態にする。 実運送体制管理簿は運送ごとに請負階層まで記載する帳簿です。管理簿を正しく作れる状態は、そのまま「2次まで」努力義務への対応力になります。
  • 契約に再委託の条件を明記する。 実態調査では、元請から再委託を契約上禁止されている場合「運びきれない量の依頼が来ても断りやすい」という下請側の声が報告されています2。再委託の可否・条件・発生時の通知義務を契約書面に落とすことは、下請側を守る効果もあります。
  • 2次を超えそうなときに気づける仕組みを持つ。 委託先からの再委託通知が自社まで上がってくるルートがなければ、努力義務への対応は事実上できません。

受託する側(下請)

  • 自分が何次請けかを確認する。 調査では「自社が何次請けなのか把握できていない」という回答が目立ちます2。管理簿制度の下では、再委託を行う場合に実運送事業者の情報を元請へ伝える協力が求められます。聞かれてから調べるのではなく、受注時に確認する習慣が実務を軽くします。
  • 運賃と手数料の透明化に備える。 手数料の明示率の低さは検討会でも問題視されており、透明化の圧力は今後強まる方向です。自社が受けた運賃の根拠を記録しておくことは、運賃交渉の材料にもなります。

実務チェックリスト

  • 荷主直の案件について、委託階層を運送ごとに記録しているか(実運送体制管理簿)
  • 協力会社との契約書面に、再委託の可否・条件・通知義務の条項があるか
  • 委託先で再委託が発生したとき、その情報が自社まで上がるルートを合意しているか
  • 3次以上の委託が発生した場合に、把握・見直しを行うフローがあるか
  • 下請として受けた仕事について、自社が何次請けかを確認しているか
  • 委託時の手数料(マージン)の考え方を説明できる状態か
  • 依頼元・依頼先に**無許可の有償運送(違法白トラック)**が含まれていないか確認しているか

まとめ——規制は「数えられること」を前提にしている

「多重下請けは何次まで?」の答えは、罰則付きの上限はないが、2026年4月から「2次まで」の努力義務が始まり、国の基準線は明確に引かれた、です。そして管理簿・書面交付・許可更新制まで含めて見ると、一連の規制はすべて「自社の委託の連鎖を記録し、何次なのかを数えられること」を前提に組み立てられています。

つまり実務の出発点は、次数の上限を気にすることではなく、いま自社の仕事が何次で流れているかを記録できる状態を作ることです。この記録を帳簿仕事として別建てにすると長続きしません。運送番頭は、案件ごとの委託の連鎖——誰から預かり、誰に任せたか、いま何次で流れているか——を日々の配車・委託の業務データとして記録します。数えられる状態が業務のなかで保たれることが、そのまま「2次まで」への対応力の土台になります。管理簿の制度自体を確認したい方は、実運送体制管理簿の解説記事記入例・テンプレートの記事をあわせてご覧ください。

脚注

  1. 国土交通省「トラック適正化二法について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000019.html 2 3

  2. トラック運送業における多重下請構造検討会「とりまとめ」(令和7年6月、国土交通省) https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001898301.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10

  3. 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html

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