荷待ち時間の記録義務——全車両への拡大と、荷主に求められること

「4トン車だから荷待ちの記録はいらない」と考えていないでしょうか。一般・特定貨物自動車運送事業者では、以前は車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上のトラックだけが対象でしたが、2025年4月の改正以降は全車両が記録対象です。しかも、記録は義務であると同時に、待機時間料や荷役料を荷主から適正に受け取るための「根拠」にもなります。

先に結論を整理します。

項目内容
いつから2025年(令和7年)4月1日(貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正。公布は令和6年10月1日)
対象車両一般・特定貨物自動車運送事業者について、従来の「車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上」から、全車両へ拡大(貨物軽自動車運送事業者は対象外)
荷待時間の記録荷主都合により30分以上待機したときが対象
荷役作業等の記録契約書にない作業を行った場合は時間を問わず対象。実施した作業がすべて契約書に明記されている場合は、合計1時間以上で対象
何に書くか運転者の業務記録(乗務記録)
保存期間最低1年間
なぜ書くか待機時間料・積込料・取卸料などを荷主から適正に収受する根拠になる。荷主側にも荷待・荷役時間の短縮の努力義務がある

以下、記録の中身から荷主勧告制度との関係まで順に解説します。

何が変わったのか——記録対象が全車両に拡大

国土交通省は「貨物自動車運送事業輸送安全規則」を改正し、一般・特定貨物自動車運送事業者の業務記録における荷待時間・荷役作業等の記録義務の対象となる車両を見直しました。従来は「車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上の車両」に限られていましたが、これを全車両へと拡大しています。改正省令の公布は令和6年10月1日、施行は令和7年4月1日です12

この改正は、単独で降ってきたものではありません。2024年(令和6年)5月に公布された改正貨物自動車運送事業法・改正流通業務総合効率化法の一連の見直しと同じ流れのなかにあります。同じ2025年4月1日には、運送契約締結時の書面交付義務や、元請による実運送体制管理簿の作成・保存義務も施行されました3。荷待ち・荷役の記録拡大は、その「取引の適正化」を、現場の記録の側から支える位置づけです。

背景には、ドライバーの拘束時間の内訳という数字があります。国土交通省の資料によれば、トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間は2020年度から2024年度にかけてわずかに短くなった一方で、荷待ち・荷役にかかる時間は減っていません1。運転時間を削って全体を短くしても、荷待ちと荷役が温存されれば、運べる量が細り、担い手不足に跳ね返ります。まず実態を記録として可視化する——それが対象拡大のねらいです。

一般・特定貨物自動車運送事業者で小型車を中心に運用してきた会社ほど、「うちの車は対象外」という前提が崩れた点に注意が必要です。一方、貨物軽自動車運送事業者はこの対象拡大には含まれません。軽貨物には別の業務記録義務があるため、ここで扱う荷待時間・荷役作業等の記録義務と混同しないようにしてください。

何を、いつ記録するのか

記録は、運転者ごとに残す**業務記録(乗務記録)**のなかで行います。荷待時間と荷役作業等は、それぞれ対象となる条件が分かれています12

荷待時間——荷主都合で30分以上

荷待時間については、従来と同じく、荷主の都合により30分以上待機したときが記録対象です。自社の都合による待機ではなく、荷主側の事情で待たされた時間が対象である点がポイントです。

記録する主な項目は次のとおりです2

  • 集貨地点等(どこで待機・荷役が発生したか)
  • 荷主から集貨地点等への到着日時を指定された場合は、その指定日時
  • 集貨地点等への到着・出発の時刻
  • 積込み・取卸しの開始・終了の時刻

到着してから積込みが始まるまで、あるいは取卸しが終わってから出発するまでの「空き」が、時刻の記録から荷待ちとして浮かび上がる構造です。

荷役作業等——契約に全て明記されているなら合計1時間以上

荷役作業等(積込み・取卸し、荷造り・仕分・棚入れ等の附帯業務を含む)については、条件が少し複雑です。国土交通省のリーフレットは、荷主との契約書に、実施した荷役作業等がすべて明記されている場合は、荷役作業等に要した時間の合計が1時間以上となったときが対象、としています1

反対に、実施した荷役作業等のうち一つでも契約書に明記されていない場合は、要した時間にかかわらず記録対象です。1時間未満だから記録しなくてよい、とは扱えません1

記録する主な項目は次のとおりです2

  • 集貨地点等
  • 荷役作業等の開始・終了の時刻
  • 荷役作業等の内容
  • その記録内容について荷主の確認が得られたか、得られなかったか

最後の「荷主の確認の有無」まで記録対象に含まれている点は見落とされがちです。具体的な当てはめは国土交通省が公開している記載例も確認してください1。荷待ちの30分、契約に全作業が明記されている場合の荷役の1時間という線引きと記録項目は、記憶ではなく一次資料に沿って社内様式へ落とし込むのが安全です。

保存は最低1年間

記録対象となる荷待時間・荷役作業等が発生した場合は、必ず業務記録に記載し、最低1年間保存することとされています1。記録は「発生したときに書く」ものであり、後からまとめて再現できる性質のものではありません。到着・出発・作業開始・終了の時刻は、その場で押さえておかなければ正確に残せません。

なぜ記録するのか——待機時間料の「根拠」になる

記録義務というと、監査で見られるための守りの作業に見えます。しかし今回の改正には、事業者にとっての攻めの意味もあります。

国土交通省は改正の目的として、次の2点を挙げています1

第一に、収受の根拠になること。 改正貨物自動車運送事業法により運送契約の適正化が図られるなか、事業者は自身の荷待時間・荷役時間を記録することで、待機時間料や積込料・取卸料などを荷主から適正に収受する根拠とすることができます。「今日はやけに待たされた」という感覚ではなく、到着・出発の時刻が残っていれば、待機に対する対価を求める交渉のテーブルに、事実を持って着けます。

第二に、荷主側にも義務があること。 改正流通業務総合効率化法により、荷主には荷待・荷役時間の短縮の努力義務が課されます。荷待・荷役時間を把握できない荷主については、事業者側に確認を取ることも想定されるため、事業者としても自身の荷待・荷役時間を把握しておく必要があります1。つまり記録は、荷主が短縮に取り組むための共通の物差しにもなります。

見方を変えれば、記録は「取られる時間」を「請求できる時間」に変えるための最初の一歩です。恒常的な荷待ちを、感覚的な不満のまま抱え込むのか、数値として卓上に載せるのか。その分かれ目に、この記録義務があります。

荷主に何を求められるか——荷主勧告制度との関係

記録は、荷主との関係でもう一つの意味を持ちます。荷待ちの常態化は、荷主の側の問題として制度に位置づけられているからです。

貨物自動車運送事業法第64条にもとづく荷主勧告制度は、トラック運送事業者の過労運転防止措置義務違反・過積載運行・車両制限令違反等に対して行政処分を行う場合に、その違反が主として荷主の行為に起因すると認められるとき、国土交通大臣が当該荷主に再発防止のための措置を勧告し、荷主名と事案の概要を公表する仕組みです45。国土交通省は、荷主の主体的な関与の具体例のひとつとして「荷待ち時間の恒常的な発生」を挙げています4

ここで、荷待ちの記録と荷主勧告制度がつながります。恒常的な荷待ちが、ドライバーの労働時間のルール違反(過労運転防止措置義務違反)を実質的に引き起こしているのであれば、それは荷主の関与が問われうる領域です。そのとき、いつ・どこで・どれだけ待たされたのかという記録は、事実関係を示す土台になります。

荷主勧告制度そのもの——対象となる違反、警告・協力要請の段階、荷主名公表の実際——は、「過積載の罰則は誰に及ぶか|運転者・運送会社・荷主それぞれの責任」で詳しく整理しています。荷待ちが関わる過労運転防止、すなわち拘束時間・休息期間・連続運転時間の基準については「改善基準告示とは|拘束時間・休息期間・運転時間の一覧(2024年施行版)」を、2025年4月に同時施行された書面交付義務については「2025年4月義務化の運送契約の書面交付」をあわせてご覧ください。

もっとも、記録があれば荷主に必ず是正させられる、という単純な話ではありません。制度が用意しているのは、あくまで事実を示せる状態を前提にした働きかけの筋道です。記録は魔法の杖ではなく、交渉と行政の双方で「事実に基づいて話す」ための最低条件だ、と捉えるのが実務的です。

実務チェックリスト

自社の対応状況を確認するためのチェックリストです。

  • 一般・特定貨物自動車運送事業者について、荷待時間・荷役作業等の記録が全車両(小型車を含む)で行われる運用になっているか
  • 荷待時間は「荷主都合で30分以上」を対象として、到着・出発・積込み・取卸しの時刻を残せているか
  • 荷主から到着日時を指定された場合は、実際の到着時刻とは別に、荷主が指定した到着日時も残せているか
  • 荷役作業等は、契約書にない作業が一つでもあれば時間を問わず、全作業が明記されている場合は合計1時間以上を対象として記録できているか
  • 記録内容について、荷主の確認が得られたか否かまで残せているか
  • 業務記録を最低1年間保存するルール(担当者・保存場所)が決まっているか
  • 記録した荷待・荷役の時間を、待機時間料・積込料・取卸料の交渉に使える形で集計できているか
  • 特定の荷主・特定の現場で荷待ちが恒常化していないか、記録から把握できているか
  • 会社をまたぐ委託(傭車・下請)の案件で、「誰の依頼で・どの案件の荷待ちか」を後から結びつけられるか

まとめ

荷待時間・荷役作業等の記録義務は、2025年4月から一般・特定貨物自動車運送事業者の全車両に広がりました。守るべき条件(荷待ちは荷主都合で30分以上、荷役は契約にない作業があれば時間を問わず、全作業が契約明記なら合計1時間以上)と項目(時刻・内容・荷主確認の有無)、そして最低1年の保存——ルール自体は難しくありません。難しいのは、発生したその場で漏れなく残し続けること、そして残した記録を「請求できる時間」や「荷主と話すための事実」へと使い切ることです。

記録を、監査のためだけの守りの帳面で終わらせない。待たされた時間を数値として持ち、待機時間料の交渉や、荷待ちの常態化を荷主と改善するための土台にする。記録義務の拡大は、その主導権を運送会社の側に少しだけ引き寄せる制度でもあります。

なお、荷待ち・荷役そのものを分単位で記録するのは、運転者の業務記録(乗務記録)が担う領域であり、点呼や日報の運用と一体で行うものです。運送番頭がその業務記録を肩代わりするわけではありません。運送番頭が受け持つのは、その一つ手前——その荷待ちが「誰の依頼で・どの案件の」ものだったのかを、日々の受注・配車・委託の記録として残すことです。見えるのは自分が当事者の取引だけで、原価や他の取引先が外に晒されることはありません。待機時間料を求めるときも、荷待ちの常態化を示すときも、必要な範囲の事実だけを開き、抱えておくものは抱えたまま示せる。義務として示すものと、商売の内側とを同じ仕組みのなかで線引きしておくこと——それが、開示に振り回されずに信用を積む、統制された開示の実務です。

脚注

  1. 国土交通省・全日本トラック協会「令和7年4月1日から、全車両が記載対象になります(荷待時間や荷役作業・附帯業務の『業務記録』への記録義務の対象が、全車両に拡大)」(リーフレット) https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001865382.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9

  2. 国土交通省「乗務記録の記載対象となる荷待時間・荷役作業等について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr4_000026.html 2 3 4

  3. 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html

  4. 国土交通省・全日本トラック協会「トラック運送事業者の法令違反行為に荷主の関与が判明すると荷主名が公表されます」(新たな荷主勧告制度リーフレット) https://www.mlit.go.jp/common/001204970.pdf 2

  5. 貨物自動車運送事業法(e-Gov 法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083

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