空車と帰り便を遊ばせない——会社間で車両を融通する仕組み

行きは満載でも、帰りは空っぽ。長距離を走らせるほど、帰り便の空車が利益を削っていく。特定の曜日や月末だけ車両が足りず、別の日は駐車場に遊ぶ車が並ぶ——。運送会社の経営者・配車担当の方なら、この「空きの二面性」に心当たりがあるはずです。ドライバー不足と燃料高が続くなかで、空車で走る一台・遊ぶ一台のコストは、以前より重く効いてきます。

先に、この記事の要点をまとめます。

論点要点
空車はなぜ生まれるか「帰り便の空車」と「日々の波動による遊休」の二種類がある。原因が違えば埋め方も違う
自社だけで埋める限界荷の方向・波動は一社では均せない。拠点間・協力会社間で車両を融通する発想が要る
掲示板型マッチングの弱点成約した瞬間に関係が切れ、誰が運んだか・事故時に誰へ聞くかが曖昧になる
融通を実務に載せる条件相手の見極め・情報の粒度・運賃と支払の締めを、その都度でなく仕組みで回す
開示との両立融通のために商売の中身まで晒す必要はない。見せる範囲は当事者の取引に絞れる

この記事では、空車と帰り便を「自社の努力」だけで埋めようとせず、拠点間・会社間で車両を融通するという選択肢を、実務の手順に落として整理します。配車そのものの効率化については Excel配車表の限界はどこか を、委託先の管理・支払の実務は 傭車管理の実務 をあわせてご覧ください。

空車には二種類ある——「帰り便」と「波動」

空車と一口に言っても、生まれ方は二つに分かれます。埋め方を考える前に、まずどちらの空きなのかを切り分けると、打ち手がはっきりします。

一つ目は、帰り便の空車です。 行きの荷はあっても、帰りの方向に自社の荷がない。長距離になるほど、この片荷の距離が長くなり、燃料と時間をかけて空車を運ぶことになります。原因は自社の荷の「方向の偏り」です。行き先が特定の地域に集中していると、帰りの荷は構造的に不足します。

二つ目は、日々の波動による遊休です。 曜日・月末・季節で荷量が上下し、繁忙日は車両が足りず、閑散日は車両が余る。同じ一週間のなかで「足りない」と「余る」が同居します。原因は荷量の「時間の偏り」です。年間で均せば台数は足りていても、山と谷があるために、谷の日の車両が遊びます。

この二つは、埋め方の相手が違います。帰り便の空車は、帰り方向に荷を持っている「別の誰か」とつながることで埋まります。波動による遊休は、繁忙のタイミングがずれている「別の誰か」と車両を貸し借りすることで均せます。どちらも、鍵は自社の外にいる相手です。

自社だけで埋める限界——だから「融通」という発想が要る

多くの会社は、まず自社のなかで空車を埋めようとします。帰り荷の営業を強化する、閑散日に定期便を寄せる、車両数を需要の谷に合わせて絞る。いずれも正しい努力ですが、限界があります。

荷の方向の偏りも、時間の偏りも、一社の努力では均しきれない構造だからです。自社の荷だけで帰り便を毎回埋められるなら、そもそも片荷は起きていません。車両を谷に合わせて絞れば、今度は繁忙日に運びきれず、機会損失か無理な傭車が発生します。自社最適の内側で回している限り、空きは形を変えて残ります。

そこで現実的なのが、車両を会社の外と融通するという発想です。

  • 拠点間の融通: 複数拠点を持つ会社なら、繁忙の拠点へ閑散の拠点から車両・ドライバーを回す。地域ごとの波動のずれを、社内で均す。
  • 協力会社間の融通: 帰り方向に荷を持つ協力会社と組み、片荷を相互に埋める。あるいは、繁忙のタイミングがずれている同業と、閑散日の車両を貸し借りする。

この「車両を融通する」動きは、いま政策的にも後押しされています。国土交通省は、複数の荷主・物流事業者が連携して共同輸配送や帰り荷の確保、輸送経路の最適化を進める取り組みを、補助の対象に位置づけています1。空車・帰り便を会社の枠を越えて埋めることは、もはや一社の工夫にとどまらず、業界全体で取り組む効率化のテーマになっています。

ただし、外と車両を融通するには、自社のなかで完結していたときには要らなかった「相手との段取り」が必要になります。ここでつまずくと、融通は一度きりの応急処置で終わります。

掲示板型マッチングの弱点——成約した瞬間に、関係が切れる

会社間で車両や荷を融通する仕組みとして、まず思い浮かぶのが求荷求車の掲示板です。空車情報・空き荷情報を掲示板に載せ、条件が合う相手とその場でつなぐ。空きを埋める入口としては有効です。

一方で、掲示板型のマッチングには、実務上つまずきやすい弱点があります。成約した瞬間に、相手との関係が切れることです。

掲示板は「つなぐ」ところまでが役割で、つないだ後の関係を保つようにはできていません。すると、こういうことが起きます。

  • 誰が運んだかが残らない。 その場限りのマッチングでは、実際に運んだのがどの会社の・どの車両・どのドライバーだったかが、後から辿りにくくなります。
  • 事故・遅延のとき、聞く相手が曖昧になる。 関係が切れているため、荷物に何かあったとき「誰に聞けばいいか」がすぐに出てきません。
  • 多層化のリスクが見えない。 つないだ相手がさらに別へ回していないか、掲示板の外では把握できません。委託の階層が深くなっても気づけないのは、多重下請けは何次まで で整理したとおり、責任の所在を曖昧にします。

空車を埋めること自体は目的の半分でしかありません。運んだ以上、誰が運んだかを辿れる状態を保つこと——これがもう半分です。掲示板型は前者を満たしても、後者を落とします。融通を単発で終わらせず、継続して回すなら、つないだ後も関係が切れない仕組みが要ります。

融通を実務に載せる——ルール・情報の粒度・締めまで

車両の融通を、その都度の口頭調整で回している間は、担当者の頭のなかに段取りが溜まるだけで、会社の力にはなりません。融通を継続して回すには、次の三つを仕組みにする必要があります。

1. 相手を見極めるルールを決める。

初めて車両や荷を任せる相手には、許可の有無・保険・安全管理体制を確認する基準を決めておきます。急ぎの融通ほど確認が甘くなりがちです。事故や荷物のトラブルが起きたときの連絡先と対応手順も、契約・取引条件に沿って事前に確認します。誰に任せてよいかの線引きを、その場の判断でなく基準として持っておくことが、融通を安全に続ける前提です。

2. 渡す情報の粒度を決める。

融通の相手に渡すのは、その運送に必要な情報だけで足ります。荷主名・品目・区間・時間・連絡先——運ぶために要る情報と、自社の運賃・原価・取引先ネットワークの全体像は別物です。ここを分けずに全部を渡すと、空車を埋めるために商売の中身まで晒すことになります。渡す範囲を最初に決めておけば、融通のたびに迷わずに済みます。荷主への開示でも同じ考え方が要ることは 荷主への開示はどこまで必要か で整理しています。

3. 運賃と支払の締めを仕組みにする。

会社間で融通すれば、そのぶん請求・支払の相手が増えます。誰にいくらで任せ、いくら請求するか。案件ごとの金額を運送の記録に紐づけておかないと、月末に突き合わせる作業が積み上がります。融通の件数が増えるほど、この締めの手間が融通のブレーキになります。金額を案件に紐づけて記録し、締めを軽くしておくことが、融通を件数で回すための条件です。

この三つは、いずれも「その都度の努力」では続きません。相手の見極め・情報の粒度・締めを、担当者の記憶ではなく仕組みに載せて、はじめて融通は日常業務になります。逆に言えば、仕組みがないまま件数だけ増やすと、運送業DXが失敗する3パターン で触れた「現場が使わない」状態に近づきます。

実務チェックリスト

空車・帰り便の融通を仕組みにするときは、次を確認してください。

  • 自社の空車を「帰り便の空車」と「波動の遊休」に切り分けて把握している
  • 帰り便が構造的に空く路線・方向を特定している
  • 曜日・月末・季節で車両が足りない日/余る日を把握している
  • 拠点間で車両・ドライバーを回す判断ルールがある(複数拠点の場合)
  • 帰り方向に荷を持つ協力会社・波動のずれる同業と、融通できる関係がある
  • 初めて任せる相手の許可・保険・安全管理を確認する基準がある
  • 融通の相手に渡す情報の範囲(必要な運送情報と、出さない経営情報)を分けている
  • 融通した案件の運賃・支払を、案件ごとに記録・突合できている
  • 誰が実際に運んだか(会社・車両・ドライバー)を後から辿れる状態にしている

まとめ——「埋める」と「辿れる」を両立させる

空車と帰り便の損失は、自社の努力だけでは均しきれません。荷の方向の偏りも、日々の波動も、原因は自社の外にあります。だからこそ、拠点間・協力会社間で車両を融通するという発想が要ります。

ただし、融通は「つなげば終わり」ではありません。掲示板型のマッチングのように成約の瞬間に関係が切れてしまうと、空車は埋まっても、誰が運んだかを辿れない状態が残ります。事故や監査のときに聞く相手が曖昧では、目先の一台を埋めた代わりに、責任の所在を手放すことになります。

空車を埋めることと、誰が運んだかを辿れること。この両方を同時に満たすのが、これからの融通の条件です。

ここで一つ、実務上のためらいが残ります。会社間で車両を融通すると、自社の取引先や運賃の中身まで相手や第三者に見えてしまうのではないか——という不安です。運送番頭は、会社をまたいで空車と荷をつなぐとき、見える範囲を当事者の取引だけに絞ります。融通の相手に渡るのは、その運送に必要な情報だけ。原価も、他の取引先も、ネットワークの全体像も、外には出ません。空きを埋めるために商売の中身まで預ける必要はない、という「統制された開示」の考え方が、会社の枠を越えた融通を、安心して続けられる実務にします。

脚注

  1. 国土交通省「中小物流事業者の労働生産性向上事業費補助金(共同輸配送や帰り荷確保等のための物流データ連携促進支援事業)の3次公募開始について」(2026年8月7日、公募〜2026年9月18日)。共同輸配送・帰り荷の確保・輸送経路の最適化に向けたデータ連携を補助対象とする。 https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_001036.html

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