Excel配車表の限界はどこか——移行を判断する5つのサイン

Excelの配車表は、よくできた道具です。罫線を引き、色を付け、自社の運び方に合わせて自由に列を足せる。多くの運送会社が、これで長年の配車を回してきました。問題は、事業が動き続けるうちに、いつの間にか「Excelだから起きている手間」が積み上がっていくことです。台数が増え、協力会社が増え、当日の差し替えが増えるほど、表そのものは変わっていないのに、それを維持する周辺の作業が重くなっていきます。

先に結論を書きます。配車表を替えるべきかどうかは、「Excelが使いにくくなったか」ではなく、**「Excelの外で起きている手作業が、どれだけ増えたか」**で判断できます。この記事では、移行を考える目安になる5つのサインを挙げ、自社がどこまで来ているかを点検できるようにします。まだ1つも当てはまらないなら、無理に替える必要はありません。逆に3つ以上当てはまるなら、Excelの限界というより、Excelを支えるための作業が本業を圧迫している段階に入っています。

サイン何が起きているか限界の正体
① 版が分裂する「最新の配車表どれ?」が起きるファイルの置き場所や利用環境が統一されていない
② 変更の反映が遅れる変更が電話・口頭で回り、表とずれる現場への連絡と表の更新が分かれている
③ 変更経緯が追えないいつ・誰が・何を・なぜ変えたか追えない履歴機能を使わない運用や表外の連絡で経緯が欠ける
④ 委託先と二重入力発注・支払・記録へ何度も転記する情報が配車表の外へ散らばる
⑤ 月末に全部突き合わせる締めが月初の一大イベントになる完了・金額・記録が別管理

以下、それぞれのサインを順に見ていきます。

サイン① 「最新の配車表、どれ?」が起きている

最初のサインは、同じ配車表が複数に分裂することです。事務所の共有フォルダに置いた表を、担当者が自分の端末にコピーして編集し、別の誰かはメール添付で受け取った版に書き込む。気づけば「8月8日_配車_最新」「同_修正版」「同_田中」といったファイルが並び、どれが本当の最新かを毎回確認するようになります。

これはExcelそのものに必ず生じる問題ではありません。OneDriveやSharePointに保存し、共同編集に対応したMicrosoft 365版Excelを使う環境なら、複数人で同じブックを編集できます1。一方、ファイルサーバー上のブック、メール添付、端末へのコピー、共同編集に対応しないクライアントが混在する運用では、編集の競合を避けるために複製が増えやすくなります。版が分裂し始めたら、Excelの機能不足と決めつける前に、保存場所と利用環境を統一できるかを確認する。そのうえで分裂が止まらないなら、配車情報を一つの場所で運用する方法を検討するサインです。

サイン② 変更が電話で回り、表と実態がずれる

2つ目は、当日の変更が配車表に反映される前に、口頭で先に走ってしまうことです。急な追加、ドライバーの交代、区間の一部を協力会社へ振り替える——こうした変更は、まず電話やチャットで現場に伝わります。配車表への記入は「後でまとめて」になり、その「後で」が来ないまま一日が終わる。

すると、配車表は朝の計画のまま止まり、実際に誰がどこを走ったかは各担当者の記憶と電話履歴の中にしかない、という状態になります。表と実態がずれること自体も問題ですが、より痛いのは、その日の本当の姿がどこにも残らないことです。翌日以降に「あの日の便は誰が運んだか」を再現しようとしても、正確なところは分からなくなります。

サイン③ 「いつ・誰が・何を変えたか」が追えない

3つ目は、②と地続きの問題です。ローカルやファイルサーバー上のブックを上書きする運用、あるいは履歴機能を使っていない運用では、10時に組んだ配車を13時に差し替えても、表の上には差し替えた後の結果しか残らず、変更の経緯を追えません。

一方、OneDriveやSharePointに保存した対応形式のブックでは、Microsoft 365版Excelの「バージョン履歴」や「変更箇所の表示」を使い、過去の版や、誰がどのセルをいつ変更したかを確認できます2。ただし、電話で変更した理由や、表へ反映されなかった差し替えまで自動で残るわけではありません。まずはこれらの履歴機能で不足を解消できるかを確認し、それでも変更の理由や表外で決まった経緯を辿れないなら、移行を検討するサインです。

平時はそれで困りません。しかし、事故が起きたとき、荷主から「その荷物は結局どの車で運ばれたのか」と問われたとき、あるいは元請から実運送の情報を求められたときに、当時の事実を後から正確に示せるかが効いてきます。委託が絡む運送では、誰から預かり、誰に任せ、実際に誰が運んだかを辿れることが、責任を果たす起点になります(この考え方は「運送業のDXが失敗する3パターン」でも触れています)。上書きで消えていく配車表は、この「辿れること」と相性が良くありません。

サイン④ 委託先とのあいだで、同じ情報を何度も打ち直している

運送会社の配車が他業種の予定表と決定的に違うのは、社内で完結しない点です。荷主から受けた仕事の一部を協力会社や傭車先に委託し、時にはそこから再委託が起きます。ここで4つ目のサインが現れます。配車表に一度書いた情報を、委託先とのやりとりのために何度も打ち直している状態です。

配車表で「この便は◯◯運送へ」と決めたら、その内容をFAXの発注書に書き写し、支払管理のために委託先台帳へ転記し、月末には請求・支払の突合のためにもう一度拾い直す。同じ「誰に・何を・いくらで委託したか」という情報が、配車表・FAX・台帳・請求表と、いくつもの場所に別々に存在することになります。転記のたびに写し間違いや記入漏れが混じり、どこかで食い違えば、その調整にまた時間がかかります。委託が多い会社ほど、この二重・三重入力の負荷は重くなります(傭車まわりの整理は「傭車管理の実務」も参照してください)。

サイン⑤ 締めが「月初の一大イベント」になっている

5つ目は、月末に現れます。完了した案件、確定した運賃、委託先への支払額、そして法令上求められる記録——これらが配車表の外にばらばらに存在していると、月が変わるたびに全部を集めて突き合わせる作業が発生します。完了案件を伝票やメールから拾い、運賃を確認し、外注分の支払を照合し、抜けや重複を点検する。締めが、日常業務ではなく月初の数日を潰す一大イベントになっているなら、それは配車の情報が「その先の業務」につながっていないサインです。

ここには、請求・支払だけでなく、法令対応も含まれます。たとえば、真荷主から直接引き受けた一の運送依頼が1.5トン以上で、その全部または一部を他の運送事業者へ委託する場合、元請には実運送体制管理簿を作成し、「誰が実際に運んだか」などを記録する義務があります3。すべて自社で運ぶ場合や、一の運送依頼が1.5トン未満の場合は、この作成義務の対象ではありません。対象となる運送で委託の情報が配車表の外にある限り、この記録もまた別建てで手作業で組み立て続けることになります。締めの遅さは請求書ソフトの問題ではなく、その手前で金額と記録が確定していないことに原因があります(この構造は「締め処理を速くする」で詳しく整理しています)。

移行を判断する実務チェックリスト

替えるべきかを、道具の好みではなく手作業の量で判断するためのチェックリストです。当てはまる項目が多いほど、Excelの限界というより「Excelを支える作業」が本業を圧迫している段階です。

  • 配車表のファイルが複数に分裂し、最新版を確認する手間が日常的に発生していないか(サイン①)
  • 当日の変更が口頭・電話で先に走り、表と実態がずれたまま一日が終わっていないか(サイン②)
  • 「あの日の便は誰が運んだか」を、後から正確に再現できないことがあるか(サイン③)
  • 委託先への発注・支払・記録で、同じ情報を2回以上打ち直していないか(サイン④)
  • 締めが「確定済みを束ねる」ではなく「月初に金額と記録を作る」作業になっていないか(サイン⑤)
  • 上記のうち、いくつ当てはまるかを数えたか(1つなら様子見、3つ以上なら移行検討の段階)
  • 仮に移行するなら、まずどの作業の二重入力を無くしたいかを1つに絞れているか

まとめ——替える基準は「表の外の手作業」

Excelの配車表そのものは、悪い道具ではありません。替えどきを判断する基準は、表が使いにくくなったかどうかではなく、その表を維持するために表の外で増えていく手作業がどれだけあるかです。版の分裂、口頭で回る変更、消えていく経緯、委託先との二重入力、月末の突合——この5つは、いずれも「配車の情報が、その先の業務や記録につながっていない」という一点に行き着きます。

裏を返せば、移行の目的は「新しい配車ソフトを使うこと」ではなく、一度入力した情報を何度も打ち直さなくて済む状態を作ることです。わたしたちが運送番頭で置いている軸も、この「義務を最小工数で」という考え方です。受注・配車・委託・実績を一本の流れで記録し、同じ情報を二度打たなくて済むようにしているのは、配車表を替えること自体が目的ではなく、表の外で増え続けていた転記を無くすためです。移行を考えるときは、まず「どの二重入力を無くしたいか」を一つ決めることから始めてみてください。

脚注

  1. Microsoft サポート「Excel ブックの共同編集を使用して同時に共同作業を行う」 https://support.microsoft.com/ja-jp/excel/get-started/collaborate-on-excel-workbooks-at-the-same-time-with-co-authoring

  2. Microsoft サポート「Excel で変更履歴を表示する」 https://support.microsoft.com/ja-jp/office/show-changes-that-were-made-in-a-workbook-978ceea7-bbf6-4337-bca7-22e7cc9892e8 / 「Microsoft 365 ファイルのバージョン履歴のしくみ」 https://support.microsoft.com/ja-jp/office/how-versioning-works-in-lists-and-libraries-0f6cd105-974f-44a4-aadb-43ac5bdfd247

  3. 国土交通省・全日本トラック協会「実運送体制管理簿の作成・情報通知の義務化」(リーフレット) https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001865381.pdf

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