パレットはなぜ半世紀も揃わなかったのか——規格が「収斂」する条件

2024年6月、官民物流標準化懇談会のパレット標準化推進分科会が最終とりまとめを公表し、日本のパレットの標準仕様として平面サイズ1100×1100mm、高さ144〜150mm、最大積載質量1トンという規格が示されました1。レンタルパレットの共同利用を推進し、2030年度を目途に共同でパレットを運用する仕組みを整備していく方向性も併せて示されています。

ここで素朴な疑問が湧きます。1100×1100mm——いわゆる11型パレットは、1970年にJIS規格になっています。規格自体は半世紀以上前から存在していたのに、なぜ日本のパレットは今日まで揃わなかったのか。そして、なぜ「今」になって国が本気で揃えに来たのか。

この問いは、生物学の「収斂進化」を補助線にすると見通しがよくなります。

収斂進化——正解が一つなら、形は勝手に揃う

収斂進化とは、系統の異なる生物が、同じ環境圧のもとで独立に似た形へたどり着く現象です。サメは魚類、イルカは哺乳類で、進化の家系図上は遠く離れていますが、「水の抵抗を最小化して速く泳ぐ」という問題への解として、どちらも同じ流線型に行き着きました。翼も同様で、鳥・コウモリ・翼竜がそれぞれ独立に「飛ぶ」という問題を解いて、似た構造を発明しています。

ここから産業規格への補助線として引き出せるのは、似た制約が強く働くと、異なる主体が似た解へ近づくことがあるという見方です。ただし、生物の進化にも産業規格にも常に一つだけの「正解」があるわけではありません。異なる環境や用途に応じて、複数の形や局所最適が併存することもあります。

産業規格の世界にも、この2つのパターンがそのまま現れます。

ネットワーク効果による収斂の例が海上コンテナです。 1950年代に米国の運送業者マルコム・マクリーンらが進めたコンテナ輸送は、船・港湾クレーン・シャーシ・鉄道が同じ箱を扱えることで大きなネットワーク効果を生み、国際標準化を経て20フィート・40フィートなどのISO規格が広く使われるようになりました。積み替えコストを下げるうえで、「箱の寸法や接続条件が揃っていること」自体に大きな価値があったからです。

制度が収斂を後押しした代表例がUSB-Cです。 スマートフォンの充電端子は、複数の方式が長く併存してきました。EUが域内で販売される対象機器に共通充電端子を義務づけたことで、USB-Cへの移行が大きく進みました2。環境圧が「ユーザーの不便」という分散した形でしか存在しないとき、収斂は自然には進みにくく、制度が転換を促すことがあります。

パレットが揃わなかった3つの理由

では日本のパレットはなぜ、JIS規格が存在したのに半世紀も収斂しなかったのか。コンテナと比べると、揃わない理由が浮かび上がります。

第一に、パレットは会社の境界を越えて使われる資産だからです。 海上コンテナには船会社やリース会社などの管理主体と、国際輸送を支える識別・管理の仕組みがあります。一方、パレットは荷主・元請・実運送・着荷主の間を移動し、返却や所在管理のルールがつながっていなければ、紛失・滞留・回収の問題が起きます。規格を揃えるだけでなく、会社をまたぐ資産管理の仕組みが要る。分科会のとりまとめがサイズと同時にレンタル・共同利用の仕組みを打ち出しているのは、この課題に対応するためです1

第二に、局所最適のロックインです。 倉庫のラックピッチ、トラックの荷台寸法、自動倉庫の入出庫口は、既存パレットのサイズを前提に投資されています。飲料業界のように別サイズが業界標準として定着した領域もあり、「自社だけ11型に揃える」インセンティブは単独では成立しません。全員が一斉に動けば全員が得をするが、一人で動くと損をする——典型的な協調ゲームの膠着です。

第三に、標準化しないコストを現場作業で吸収できる局面が多かったことです。 パレットが揃っていなくても、手荷役や積み替えで運用を続けることはできます。そのため、個々の現場に分散した非効率が、規格を切り替える投資判断へ直結しにくい状態が続きました。

「今」揃い始めた理由——環境圧の急上昇

この構図を変えつつあるのが、ドライバーの時間外労働規制に始まる2024年問題です。輸送力への制約が強まり、荷待ち・荷役時間の削減も法制度上の要請になったことで、手荷役や積み替えにかかる時間を経営課題として捉える必要性が高まりました。

つまり、標準化を進める条件が半世紀ぶりに強まったのです。環境圧(人手不足・荷役時間規制)が強まり、制度(物流2法改正・標準化のとりまとめ)が協調ゲームの膠着を外しに来た。標準パレットの採用が難しい分野や、すでに別規格が定着した業界もあるため、すべてが11型へ揃うとは限りません。それでも、どの範囲で、どの速度で共同利用を広げるかが具体的に問われるフェーズへ入ったと見ることはできます。

物流の歴史はある意味で、荷物のバッファをどこに置くかの歴史です。コンテナは港の沖仲仕の筋肉をクレーンに置き換え、パレットはトラック後方の手荷役をフォークリフトに置き換える。標準化とは、人間の柔軟性で吸収していた「ずれ」を、規格の側で吸収する仕組みへの移行だと言えます。

次に収斂が来る場所——モノの規格から、情報の規格へ

ここからが本題です。パレットの収斂が始まったいま、同じ環境圧は次にどこへ向かうか。

私たちは、「運送の実態を表す情報」に向かうと考えています。

多重下請け構造の中で、実際に誰が運んだのか・どの区間を・何次請けで・いくらで、という情報は、いまも各社の配車板・Excel・電話とFAXの中に、社内ローカル規格でばらばらに存在しています。2025年4月に義務化された実運送体制管理簿には法定の統一様式はありませんが、実運送事業者の名称・貨物の内容・運送区間・請負階層という共通の必須項目を記録するよう求めています。制度が情報項目の共通化を促したという点で、パレット標準化と通じる構図だと読めます。

そしてパレットと同じ急所もあります。運送の実態情報は、荷主・元請・下請・実運送と会社の境界を越えるたびに形式が変わり、持ち主が曖昧になる。1社の中だけで整えても意味がなく、境界を越えて受け渡せる形になって初めて価値が出ます。パレットにおけるレンタル・共同利用に相当するのは、情報の世界では会社をまたいで委託関係と実運送記録がつながる共通基盤です。

運送番頭が「協力会社は無料」という設計を採っているのは、この構造理解に基づいています。規格は、ネットワークの末端が参加コストゼロで乗れるときに初めて収斂する。コンテナがそうであったように、揃った後の世界では「揃っていること」自体がインフラになり、誰もそれ以前を思い出せなくなります。

まとめ

  • 規格は、環境圧が強く最適解が一つのとき自然に収斂しやすく(コンテナ)、圧力が分散しているときは制度が移行を後押しすることがある(USB-C)
  • パレットが半世紀揃わなかった背景には、会社をまたぐ資産管理の難しさ、局所最適のロックイン、標準化しないコストを現場で吸収できたことがある
  • 2024年問題と物流2法改正で標準化の条件が強まり、例外分野を含めて、どの範囲・速度で1100×1100mmの共同利用を広げるかが問われている
  • 次の収斂は運送実態の情報で起きると私たちは考える。実運送体制管理簿の義務化はその一つの契機であり、境界を越えて情報を受け渡せる基盤の重要性が高まる

脚注

  1. 官民物流標準化懇談会 パレット標準化推進分科会「最終とりまとめ」(令和6年6月、国土交通省) https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001751645.pdf 2

  2. Directive (EU) 2022/2380(EU共通充電端子に関する指令) https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2022/2380/oj

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